建設業許可には、いくつかの要件があります。経営業務の管理責任者がいること、専任技術者がいること、財産的基礎があること。これらは「満たさなければならない要件」です。
一方で、欠格要件は「該当してはいけない要件」です。建設業法第8条に定めがあり、ひとつでも当てはまると許可は受けられません。他の要件をすべて満たしていても、欠格要件に該当した時点で不許可になります。
欠格要件は、大きく2つに分かれます。
ひとつめは、許可申請書またはその添付書類の中に、重要な事項について虚偽の記載があるとき、または重要な事実の記載が欠けているときです。
ふたつめは、申請者本人、役員等、政令で定める使用人が、建設業法第8条各号のいずれかに該当するときです。第8条には14の号が並んでいます。主なものを挙げると、次のとおりです。
破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者。不正の手段により許可を受けたことや営業停止処分に違反したことなどにより許可を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者。取消処分の聴聞の通知を受けてから処分が下るまでの間に廃業の届出をした者で、その届出の日から5年を経過しない者。営業の停止を命ぜられ、その停止の期間が経過しない者。営業を禁止され、その禁止の期間が経過しない者。拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、またはその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者。一定の法令に違反したことにより罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、またはその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者。暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者。心身の故障により建設業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの。暴力団員等がその事業活動を支配する者。
なお、古い書籍や解説では「成年被後見人もしくは被保佐人」が欠格要件として挙げられていることがありますが、令和元年の法改正で削除されており、現在は「心身の故障により建設業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの」に置き換わっています。
このうち、今回のテーマである執行猶予に関係するのは、「拘禁刑以上の刑」と「罰金の刑」の2つです。
この2つは、性質がまったく違います。
拘禁刑以上の刑については、建設業法第8条第7号が「拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者」と定めています。ここでは罪名が問われません。どんな罪であっても、拘禁刑以上の刑であれば対象になります。
罰金刑については、同条第8号に定めがありますが、対象となる法令が限定されています。この違いが後で重要になります。
なお、令和7年6月1日施行の刑法改正により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されました。それ以前の判決は「懲役」「禁錮」と表記されますが、建設業許可の取扱いに違いはありません。
2.執行猶予付きの判決は欠格要件に該当します
たとえば「懲役1年、執行猶予4年」という判決を受けたとします。この場合、刑務所に入ることはありませんが、建設業許可の欠格要件には該当します。
理由はシンプルです。条文は「刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から」と書かれています。執行猶予は、刑の執行が先送りされている状態です。執行が終わったわけでも、受けることがなくなったわけでもありません。したがって、猶予期間中はまだこの条文の起算点にすら到達していない、という整理になります。
つまり、判決が確定した日から執行猶予期間が満了するまでの間は、ずっと欠格要件に該当し続けます。上の例であれば4年間です。
この期間中は、新規に建設業許可を取ることができません。
3.執行猶予が明ければ、その時点で欠格ではなくなります
ここが一番誤解の多いところです。
「執行猶予が明けてから、さらに5年待つ必要があるのではないか」とご心配される方が非常に多いのですが、そうではありません。
刑法第27条に「刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う」という規定があります。執行猶予を無事に終えると、刑の言い渡しそのものが法律上なかったことになるのです。
「刑に処せられた」という事実が法律上消えるわけですから、建設業法第8条第7号の「5年」のカウントは、そもそも始まりません。執行猶予期間が満了した時点で、欠格要件から外れます。
言い換えると、執行猶予期間が満了した日は、条文にいう「刑の執行を受けることがなくなった日」ではありません。そこから5年を数えるのではなく、5年を待つことなく資格が回復する、という整理になります。ここを取り違えると、本来は申請できる時期に申請を見送ってしまうことになりますので、注意が必要です。
実刑判決と比べると、違いがはっきりします。
懲役1年・執行猶予4年の場合、判決確定から4年後に欠格解消となります。あわせて4年です。
懲役1年の実刑の場合、刑期を終えて出所し、そこからさらに5年を経過してはじめて欠格解消となります。あわせておよそ6年です。
執行猶予を取り消されずに満了できるかどうかで、大きな差が出ることがおわかりいただけると思います。
4.罰金刑の場合は、罪名によって扱いが変わります
拘禁刑以上の刑は罪名を問わず欠格要件になりますが、罰金刑は違います。
建設業法第8条第8号が対象としている法令は、次の4つのグループに限られます。
ひとつめは、建設業法そのものです。
ふたつめは、建設工事の施工または建設工事に従事する労働者の使用に関する法令のうち、政令で定めるものです。対象となるのは建築基準法、宅地造成及び特定盛土等規制法(いわゆる盛土規制法。旧・宅地造成等規制法)、都市計画法、景観法、労働基準法、職業安定法、労働者派遣法ですが、法律まるごとが対象になるわけではなく、それぞれ特定の規定に限られています。具体的には、建築基準法第9条第1項または第10項前段による特定行政庁または建築監視員の命令に違反した場合、盛土規制法による都道府県知事の命令に違反した場合、都市計画法第81条第1項による国土交通大臣・都道府県知事・市町村長の命令に違反した場合、景観法第64条第1項による市町村長の命令に違反した場合、労働基準法第5条の強制労働の禁止および第6条の中間搾取の排除に違反した場合、職業安定法第44条の労働者供給事業の禁止に違反した場合、労働者派遣法第4条第1項の建設業務への労働者派遣の禁止に違反した場合です。
三つ目は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律です。
四つ目は、刑法の一部の罪と、暴力行為等処罰に関する法律の罪です。刑法については、第204条の傷害、第206条の現場助勢、第208条の暴行、第208条の2の凶器準備集合及び結集、第222条の脅迫、第247条の背任に限られます。古い書籍では凶器準備集合及び結集を「第208条の3」と記載しているものがありますが、危険運転致死傷罪が刑法から自動車運転死傷行為処罰法へ移されたことに伴い条ずれが生じており、現在は第208条の2です。
これらの法令に違反して罰金刑を受けると、刑の執行を終えた日、つまり罰金を納付した日から5年間、欠格要件に該当します。罰金は判決確定後すぐに納付するのが通常ですので、実務上は「刑が確定してからおよそ5年」と考えていただければ結構です。
逆に言えば、ここに挙がっていない法律に違反して罰金を受けても、建設業許可の欠格要件には該当しません。
たとえば道路交通法は、この一覧に含まれていません。酒気帯び運転で罰金50万円という判決を受けたとしても、罰金刑にとどまるかぎり建設業許可には影響しないことになります。
一方で、同じ飲酒運転でも懲役刑(拘禁刑)が言い渡されれば、執行猶予が付いていても欠格要件に該当します。同じ出来事でも、判決の内容によって結論が正反対になるということです。
判決を受けた際は、罪名だけでなく「刑の種類」を必ずご確認ください。
5.誰が欠格要件の審査対象になるのか
会社の従業員が判決を受けたからといって、直ちに許可に影響するわけではありません。
兵庫県の手引では、審査の対象は「申請者、役員等又は政令で定める使用人」と整理されています。政令で定める使用人、いわゆる令3条使用人とは、支配人および支店または常時建設工事の請負契約を締結する営業所の代表者のことです。支店長や営業所長がこれに当たります。
したがって、法人の場合は取締役や執行役などの役員等と令3条使用人、個人事業の場合は事業主本人と令3条使用人が対象になります。
なお、建設業許可事務ガイドラインでは、相談役や顧問、総株主の議決権の100分の5以上を有する株主なども、法人に対して業務執行役員と同等以上の支配力を有すると認められる場合には「役員等」に含まれるとされています。登記上の肩書ではなく実質で判断されるということです。
現場の職人さんや事務員の方が判決を受けても、許可そのものには影響しません。
6.すでに建設業許可を持っている場合はどうなるか
新規申請の場面だけでなく、既存の許可業者にとっても重大な問題になります。
役員等が欠格要件に該当した場合、建設業法第29条第1項第2号により、許可は取り消されます。これは行政庁の裁量ではなく、必ず取り消される性質のものです。
では、取り消された後はどうなるのか。
建設業法第8条第2号には「許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者」という規定がありますが、これは第29条第1項第7号(不正の手段により許可を受けた場合)と第8号(情状が特に重い場合や営業停止処分に違反した場合)による取消しに限定されています。
欠格要件に該当したことによる取消しは、この2つに当たりません。したがって、取消しを理由とする5年間の再取得制限はかかりません。執行猶予期間が満了して欠格要件が解消すれば、あらためて新規申請をすることができます。
ただし、許可が取り消されている間は、500万円以上(税込。建築一式工事は1,500万円以上)の工事を請け負えなくなります。事業への影響は決して小さくありませんので、判決が見込まれる段階で、役員から外れるなどの対応を検討すべきケースもあります。
7.よくあるご質問
執行猶予の起算日はいつからですか
判決が言い渡された日ではなく、判決が確定した日から起算します。控訴期間である14日が経過した時点で確定します。実務では判決謄本などで確定日を確認します。
前科があること自体は許可に影響しますか
刑の執行を終えて所定の期間が経過していれば、前科があること自体は欠格要件になりません。建設業許可で問われるのは、あくまで条文に定められた期間内かどうかです。
申告しなければわからないのではないですか
許可行政庁は関係機関からの通知等によって把握します。虚偽の申請をした場合は、不正の手段により許可を受けたものとして取り消され、そちらは取消しの日から5年間、再取得ができなくなります。正直に申告し、適切な時期に申請することが結果的に一番の近道です。
執行猶予中に会社を設立して許可を取ることはできますか
その方が役員や令3条使用人に就任すれば、会社としても欠格要件に該当します。名義だけ他の方にして実質的に経営に関与するようなことは、許可の取消しにつながりますのでお勧めできません。
8.まとめ
執行猶予付きであっても、拘禁刑(懲役・禁錮)以上の刑であれば建設業許可の欠格要件に該当します。罪名は問われません。
ただし、執行猶予期間を無事に満了すれば、刑の言い渡しが効力を失うため、その時点で欠格要件から外れます。さらに5年を待つ必要はありません。
罰金刑については、建設業法第8条第8号に列挙された法令に違反した場合に限って欠格要件となります。建設業法、建築基準法や労働基準法など政令で定める法令、暴力団対策法、刑法の一部の罪などがこれに当たり、道路交通法は含まれていません。
ご自身のケースで判断に迷われる場合は、判決の内容を確認したうえで、申請の時期を逆算して準備を進めることが大切です。
建設業許可のご相談は行政書士なかお事務所へ
行政書士なかお事務所では、姫路市を中心に建設業許可の申請代行を行っております。姫路市の建設業許可の申請先は、中播磨県民センター姫路土木事務所建設業課です。
欠格要件が関わるケースは、申請できる時期の見極めと、申請書類の作り方の両方に注意が必要です。「いつから申請できるのか」「今の状況で許可が取れるのか」といった段階からのご相談も承っております。